最終更新日 2023年1月25日
20世紀の歴史を石油が動かした
20世紀は、その約100年前に始まった産業革命が石油によって加速された時代でした。
その存在自体は古くから知られていて、例えば古代ギリシアでは海戦に用いる火炎放射器の一種に燃料として使われていたとも言われています。
また植物や動物の油から灯火を得るのが一般的だった時代にも、一部の産地では夜間の灯りの燃料として使われていたようです。
ただこれらの例はごく稀なもので、広く一般的に利用されるようになったのは19世紀も後半になってからでした。
この時代に利用に拍車がかかった原因のひとつは、井戸掘りの技術を応用した油井の掘削方法の開発です。
それまでは有用性がある程度認識されていましたが、自然と湧き出て来る場所は少なく需要を満たすだけの供給が得られないというジレンマを抱えており、より採掘が簡単な石炭の利用が主流でした。
蒸気機関の発達による急速な機械化も、この段階では石炭供給に依存していたのです。
従って蒸気機関は外部から固形燃料を入れることが可能な外燃機関になるのが、燃料の構造上は必然といえました。
ところが外燃機関の状態では小型化が難しく大型の船や機関車への搭載は出来ても、自動車などのエンジンを載せる場所の制約がある乗り物では、どうしても馬力が不足するという問題に直面します。
そこで考えられたのが内燃機関なのですが、当初は石油が手に入りにくいという事情もありエタノールを用いたものが開発されたのでした。
しかし、エタノールの生産も決して大量には出来ませんので蒸気機関がまだまだ優勢な時代が続きましたが、この油井開発による大量供給が可能になった時点で、爆発的に需要が喚起されたのです。
経済的な重油のボイラー展開
精製された重油がまずボイラー燃料に採用されていきます。
これらは大型船に続々と搭載されていきます。
液体であるため燃料積み込みの便利さやエンジンへの供給のしやすさ、更には効率の良さなど石炭と比べても経済的であった重油は瞬く間に船舶ボイラーに展開して行きます。
20世紀はじめにこの潮流に影響されたのが船会社と各国の海軍でした。
この時から石油は世界経済と国防に重要なインパクトを与える戦略物資となって行きます。
海上輸送での展開の次に行われたのが、内燃機関への応用でした。
爆発による強大なエネルギーを動力源とする内燃機関は、ガソリンや軽油にうってつけの機構だったのです。
ディーゼルエンジンやガソリンエンジンは、自動車の普及に無くてはならないものでした。
やがて小型で高出力のエンジンが出て来ると、航空機や戦車などの開発が始まるのです。
第二次世界大戦が勃発する前までには、世界の強国のほとんどは石油に依存した経済軍事体制になっていて、実はこの事が第二次世界大戦を引き起こした原因のひとつともされています。
例えば日本は、現代の我々のイメージではこの時代はまだそれほど自動車などは普及していなかった事もあり、こうした世界の潮流とは関係ないように思ってしまいがちですが、実際には高度に油に依存した経済環境になっていました。
まず当時の日本では600万トンにものぼる商船隊を持っており、世界有数の海運能力があったのですが、これらの船のほとんどは重油ボイラーまたはディーゼルを搭載していたのでした。
そしてアメリカ・イギリスと並ぶ世界3大海軍になっていた日本海軍の艦隊もまた、重油がなければ動かない状態にありました。
原油に頼っていた日本
この時代の日本はアメリカからの原油輸入に頼っており、中国との戦争やドイツとの関係で対立を深めたアメリカが対日禁輸を発動して圧力をかけると、瞬く間に日本は追い詰められてしまいます。
この頃のエピソードに、水から油を作るという触れ込みで訪れた詐欺師に、日本海軍首脳がまんまと騙されたという話しが残っています。
結果的にこのサギは未遂には終わりましたが、諮問を受けた技術者が口々にそんな事は出来ないと助言したにも関わらず、軍首脳は立ち合い実験まで行ったのです。
これなどいかに日本が油に依存していたかを示す逸話でしょう。
切羽詰まった日本は備蓄が底を尽きる前にと、バクチのような戦争に突入していったのでした。
また、日本の同盟国で一足先に世界との戦いに入っていたドイツでも、自国の生産量だけでは油が足りず当時主力を置いていたソ連との戦いで本来の目標であった首都モスクワの攻略を断念して、南部の油田地帯を占領しようとした事が戦局の悪化を招いたともされています。
戦後になると中東での石油開発が進みますが、巨大な利権を巡って先進国と産油国の間での対立が激化していきます。
1970年代には産油国が結束して輸出を制限したため、アメリカに代わって中東に大きく依存するようになっていた日本では石油ショックが起こり人々はパニックに陥ります。
こうした経験が、エネルギー資源を一部に依存せず分散されようという考えに繋がり、今に繋がる原子力政策が進められているのです。
更にはクリーンエネルギーや水素を使った発電など多方面の開発が進んでいますが、まだまだ原油が大きなウェイトを占めている現状は変わりそうにはありません。